自閉症の倫理学
彼らの中で、彼らとは違って
自閉症者は他者の「心」を理解する能力(=「心の理論」)が欠損しているとされる。他者とのコミュニケーションだけでなく自己理解にまで深刻な影響が及ぶだけに、自閉症者は非自閉症者と異なる世界を生きているとも言える。従来の倫理理論では捉えきれない自閉症者の存在を見つめ、彼らをどう理解しどう扱うべきかを原理的に考察する。
目次
日本語版への序文
謝辞
序論
第1章 自閉症の哲学入門
自閉症者の声──ジム・シンクレア
1 自閉症に関する心の理論説、ならびにそれと競合する諸仮説
2 人間の行動を説明する二つの仮説に対する自閉症からの試練──理論説とシミュレーション説
3 自閉症と自己意識
4 自閉症と言語の哲学──意味理論と心の理論
5 自閉症と心のモジュール性──心の理論、心的モジュール、ならびに自閉症の存在論
第2章 自閉症的人生の価値
自閉症者の声──ウェンディ・ローソン
1 道徳共同体のメンバーに関するウォレンの立場
2 人間の能力に関するヌスバウムの立場
3 幸せの要素に関するスキャンロン、ヴィーチ、 パーフィットの立場
4 人間的形態をした社会生活に関するホブソンの立場
5 過激な見解──道徳共同体のメンバーの資格をある人たちには認めないことに関するベンの立場
6 この過激な見解に対する反駁──他者が排除されるとき、何が失われるか
第3章 自閉症と道徳理論
自閉症者の声──グニラ・ガーランド
1 ケネット──ヒューム説に対する反駁
2 ケネットによるカント説の慎重な受容と、ベンによる拒否
3 個別主義と一応の義務の倫理
4 非両立的な道徳理論から生ずる問題──成人の自閉症者は「完治」されるべきなのか?
第4章 自閉症と遺伝学的技術
自閉症者の声──ドナ・ウィリアムズ
1 親の自律性と、遺伝学的技術の使用に対する反論の失敗
2 障害に関する社会構成論
3 聾共同体論と、類比の失敗
4 自閉症と開かれた未来に対する権利
5 自閉症者の出生を防止するための男女の産み分け
第5章 自閉症者に対する研究
自閉症者の声──テンプル・グランディン
1 カントの議論、功利主義の議論、そして原則主義と自閉症
2 自閉症と研究への同意能力
3 代理判断、最善の利益、失われた集団
4 自閉症的完全さの倫理
注
監訳者解説[柴田正良・大井学・東田陽博]
訳者あとがき──バーンバウム先生との出会い[重松加代子]
参考文献
事項索引
人名索引
著者略歴
デボラ・R・バーンバウム(Deborah R. Barnbaum)
1967年生まれ。1990年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校を卒業後、マサチューセッツ大学で1993年に修士号、1996年に博士号を取得。現在、オハイオ州のケント州立大学教授。専門は哲学、倫理学、生命倫理、研究倫理など。著書にThe Ethics of Autism: Among Them but Not of Them, Indiana University Press, 2008(邦訳本書)、共著にDeborah R. Barnbaum and Michael Byron, Research Ethics: Text and Readings, Prentice Hall, 2001がある他、“Supererogation and Clinical Research,” Medicine, Healthcare, and Philosophy, 11(2008)など論文多数。
監訳者略歴
柴田正良(しばたまさよし)
1953年生まれ。1982年、名古屋大学大学院博士課程単位取得満期退学。金沢大学人文学類教授。主著に『ロボットの心──7つの哲学物語』(講談社現代新書)。
大井 学(おおいまなぶ)
1952年生まれ。1977年、京都大学大学院博士課程中途退学。博士(教育学)。金沢大学学校教育学類教授。共編著に『子どもと話す──心が出会うINREALの会話支援』(ナカニシヤ出版)ほか。
訳者略歴
重松加代子(しげまつかよこ)
1951年生まれ。1975年、神戸女学院大学卒業。同時通訳者。バーンバウム、ギルバーグ、ショプラーなどの自閉症研究者やグランディンなど自閉症者の通訳を多数行っている。
解説分担執筆
東田陽博(ひがしだはるひろ)
1947年生まれ。1975年、名古屋大学大学院博士課程修了(医学博士)。金沢大学医学部教授を経て、同大学子どものこころの発達研究センター特任教授。専門は神経化学(マウスの社会性行動とオキシトシン分泌機構、自閉症の原因と治療の研究)。平成24年度文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)受賞。
日本語版への序文
謝辞
序論
第1章 自閉症の哲学入門
自閉症者の声──ジム・シンクレア
1 自閉症に関する心の理論説、ならびにそれと競合する諸仮説
2 人間の行動を説明する二つの仮説に対する自閉症からの試練──理論説とシミュレーション説
3 自閉症と自己意識
4 自閉症と言語の哲学──意味理論と心の理論
5 自閉症と心のモジュール性──心の理論、心的モジュール、ならびに自閉症の存在論
第2章 自閉症的人生の価値
自閉症者の声──ウェンディ・ローソン
1 道徳共同体のメンバーに関するウォレンの立場
2 人間の能力に関するヌスバウムの立場
3 幸せの要素に関するスキャンロン、ヴィーチ、 パーフィットの立場
4 人間的形態をした社会生活に関するホブソンの立場
5 過激な見解──道徳共同体のメンバーの資格をある人たちには認めないことに関するベンの立場
6 この過激な見解に対する反駁──他者が排除されるとき、何が失われるか
第3章 自閉症と道徳理論
自閉症者の声──グニラ・ガーランド
1 ケネット──ヒューム説に対する反駁
2 ケネットによるカント説の慎重な受容と、ベンによる拒否
3 個別主義と一応の義務の倫理
4 非両立的な道徳理論から生ずる問題──成人の自閉症者は「完治」されるべきなのか?
第4章 自閉症と遺伝学的技術
自閉症者の声──ドナ・ウィリアムズ
1 親の自律性と、遺伝学的技術の使用に対する反論の失敗
2 障害に関する社会構成論
3 聾共同体論と、類比の失敗
4 自閉症と開かれた未来に対する権利
5 自閉症者の出生を防止するための男女の産み分け
第5章 自閉症者に対する研究
自閉症者の声──テンプル・グランディン
1 カントの議論、功利主義の議論、そして原則主義と自閉症
2 自閉症と研究への同意能力
3 代理判断、最善の利益、失われた集団
4 自閉症的完全さの倫理
注
監訳者解説[柴田正良・大井学・東田陽博]
訳者あとがき──バーンバウム先生との出会い[重松加代子]
参考文献
事項索引
人名索引
著者略歴
デボラ・R・バーンバウム(Deborah R. Barnbaum)
1967年生まれ。1990年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校を卒業後、マサチューセッツ大学で1993年に修士号、1996年に博士号を取得。現在、オハイオ州のケント州立大学教授。専門は哲学、倫理学、生命倫理、研究倫理など。著書にThe Ethics of Autism: Among Them but Not of Them, Indiana University Press, 2008(邦訳本書)、共著にDeborah R. Barnbaum and Michael Byron, Research Ethics: Text and Readings, Prentice Hall, 2001がある他、“Supererogation and Clinical Research,” Medicine, Healthcare, and Philosophy, 11(2008)など論文多数。
監訳者略歴
柴田正良(しばたまさよし)
1953年生まれ。1982年、名古屋大学大学院博士課程単位取得満期退学。金沢大学人文学類教授。主著に『ロボットの心──7つの哲学物語』(講談社現代新書)。
大井 学(おおいまなぶ)
1952年生まれ。1977年、京都大学大学院博士課程中途退学。博士(教育学)。金沢大学学校教育学類教授。共編著に『子どもと話す──心が出会うINREALの会話支援』(ナカニシヤ出版)ほか。
訳者略歴
重松加代子(しげまつかよこ)
1951年生まれ。1975年、神戸女学院大学卒業。同時通訳者。バーンバウム、ギルバーグ、ショプラーなどの自閉症研究者やグランディンなど自閉症者の通訳を多数行っている。
解説分担執筆
東田陽博(ひがしだはるひろ)
1947年生まれ。1975年、名古屋大学大学院博士課程修了(医学博士)。金沢大学医学部教授を経て、同大学子どものこころの発達研究センター特任教授。専門は神経化学(マウスの社会性行動とオキシトシン分泌機構、自閉症の原因と治療の研究)。平成24年度文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)受賞。
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定価 2,860円(税込)